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2012年7月発売 
128頁 
定価:1,500円(税別) 




 場所の歴史は、自然環境と人とがどのように共存しながら、自然の脅威や恵みと暮らしてきたかを語っている。場所は、その場所に暮らし生存して来た人たちがつくりあげ形成し蓄積してきたものだ。場所ごとでそれは違う、社会はその違いを一般化してしまう。場所の復興なくして日本の復興は無い、これは何を意味しているのであろうか?
 数百年、数千年の場所に残っていた智恵をふまえていれば、今回の被災はかなり被害をくい止められたということが、被災後わかってきた。事実その智恵を守って邑を作ってきて、被害をのがれえた場所もある。産業主義経済の発展とその社会設計は、その場所の歴史経験を無視してきてなされていたのを、多くの人が知った。
 場所の哲学を再考しながら、また同時に世界の場所の実態を本誌はなんどか探ってきたが、今回、奥州相馬の場所の基盤を探り調査した結果を掲載する。岡本哲志氏は、すでにわたしどもと銀座調査において比類のない調査研究成果をだしておられ、このたびもわたしどもの研究会において調査報告いただいた、これは掲載しておかねばとまとめてもらった次第である。氏の調査は、世界線で秀逸なものである、それはいわゆる都市研究のほとんどが社会表象実態研究に終っているのに比して、社会空間の底に潜む〈場所〉の隠れた、しかし実在するものを徹底して明るみに出すと云う事で、世界でも類の無い高度なリサーチをなさるからだ。場所に関わろうとするとき、わたしは岡本氏のリサーチなくしてはきちんとしたことがなしえないという確信をもっている。その結果の驚きと深みは、場所の人たちをも覚醒させる。基礎的に、水の側から、海や川の側から、陸を眺める、そしてそこに潜んでいる歴史の相を、氏はあざやかに浮き上らせる。今回も、南相馬をリサーチしながら、江戸の設計の相を、氏はあざやかに浮き上らせる。今回も、南相馬をリサーチしながら、江戸の設計の深層が共時的に浮き上ってきた。江戸と場所との新たな関係性の深層もかいまみえてきた。武士制のひとつの根源が浮上して来たといえる。
 「有」の場所に〈場所〉は見えていない、そこに潜む「絶対無の場所」が浮上していかないと場所は〈場所〉足りえない、そこにたいするエンピリカルなリサーチは、岡本氏しかなしえないものであるのだが、「理論=現実」である実相が明確になるということが、わたしが氏の研究を最大評価する根拠である。被災地復興を、いままでと同じ社会空間設計でしていったなら、それは同じ災禍を招く。地の揺れ(地殻動態)と天の変動(大陽の変化とオーロラの動態など)が、まだわたしたちを千年に一度の脅威として近いうちに覆おうとしている。それに対応するうえでも、真摯な科学者たちのリサーチに耳を傾けるだけではない、天と地とのはざまの場所の実際の歴史、表層の歴史ではない、象徴環境と物質環境との動態的な歴史をふまえておかねばならない。
 日本のそれぞれの場所が、こうした質的な考証をなして、そのうえで場所の設計をはからねばならない、その具体例のひとつの総体を示しえたと思う。奥州相馬の7月末の野馬追に、この書をささげさせていただく。わたしたちは、防護服をまとって警戒区域にはいり、鳥居はくずれたままだが社殿は毅然と建っていた小高神社へまいり、場所の真の復興の兆しとなる野馬追の復活を祈った、そのとき誓ったひとつのささやかな学術からの献上物である。
 亡くなられたたくさんの御〈タマ(魂)〉に、合掌。

編集・研究ディレクター 山本哲士
 書籍内容
▼ 奥州相馬発、場所と文化  岡本哲志
 A.なぜ、いま相馬野馬追なのか
 B.東国における「風の人」と「土の人」
 C.妙見信仰と東国の風土性
 D.場所と文化の一体非分離の再構築、将門から源氏へ
 E.奥州相馬の成立と持続、二度の危機を乗り越えて
 F.近世城下町の集大成・江戸(奥州相馬は江戸に何を見たのか)
 G.江戸時代の奥州相馬と野馬追(解体と統合の融合)

▼ 【連載 中村三春のテクスト文芸学 第5回】
  パラドクシカル・デカダンス-------太宰治「桜桃」まで 中村三春

▼ 【自著を語る】
  『鷹匠の技とこころ----鷹狩文化と諏訪流放鷹術』 大塚紀子

▼【iichiko note】
  雑貨の場所 河北秀也
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